9/12/2019

映画のある暮らしーアラビアのロレンス


小さな私の街の小さな映画館は、行きやすいし、全席指定で、座り心地もいいし、
お値段も手頃。思い立ったときにすぐに行けるのでお気に入りです。
独立記念日のお休みなので、一本観ようと思いましたが、
この頃の新しい映画はいまひとつ食指が動かない。
映画館では、昔の名画のリバイバル、オペラやバレエの上映などもやっています。
2019年は、スタジオジブリのアニメも月一ペースで上映しています。

今回、うーん、これかな〜、と決めたのは「アラビアのロレンス」
200分の、ノーカット版。3時間20分。間にインターミッションが入ります。
(劇場の公演みたい)

下は映画が始まる前のDVDの宣伝。ノーカット版。
このようなリバイバルシリーズの入場料は、一人、12ドル50セント。
(ふだんは、普通の映画は5時までだと6ドル。それより後は10ドルです。)
こういったリバイバルは、あまり人がたくさん入らないことが多いのですが、
なんと、今回はほぼ満席でした。わお!  
1962年の映画ですから、57年ほど前になります。
「アラビアのロレンス」は、とおおおい昔に、日本で観ただけの私です。
じつのところ、あまりディテールを覚えていません。
「未知との遭遇」のリバイバルをここで観たときも、
「ああ、そうだったのか!  と再認識したところが多かったので、
期待を持って観に行きました。(午後いっぱい時間を使いましたが)





さて、観客はというと、もちろん年配の方だけでなく、ミックス。
ミドルスクールくらいの年頃の子供を連れたお父さんなどもおりました。

57年ほど前の映画ですが、古さを感じませんでした。
カラーでしたし。
はっきり感じたのは、物語の中の一つひとつのエピソード、人物が、
宿命のようにしっかり繋がっていたことです。
ものすごくオーソドックスで、しっかりした仕組み。
名作と言われるのは、きっとここなのでしょう。
例えば、アカバという町を攻め落とすために厳しい砂漠地帯を超える進行をしているとき、
一人うたた寝をしてしまい、ラクダから落ちてしまったアラブ人がいました。
ロレンスが、彼を救出するために戻ろうと言うと、皆、やめろと。
“It’s written.” (宿命だ)
ロレンスは、一人、彼を救助するために引き返します。
無事、仲間に追いついたとき、
“Nothing is written.”
と言います。
が、この、大変な思いをして救った男は、いざこざで別の部族の男を殺してしまい、
どちらにも属さないロレンスが場をおさめるため、処刑することになります。

ロレンスは、物語の始めでは、自分をファイサルのところまで送ってくれるガイドを「友」と思い、
彼が井戸水を盗み飲みしたということであっけなく撃ち殺されたとき、とてもショックを受けます。

が、争いの中にどっぷりと巻き込まれて行くうち、
自分も殺すことに手を染め、、、、
ーーーだんだん精神状態が保てなくなっていきます。

ロレンスは、学者肌で、博愛主義。
争いの世界にはフィットしない資質です。
どちらかというと女性っぽい感じでびっくり。
ホモセクシャルだったという説がありますが、
たしかに、今回観たとき、彼の話し方、歩き方、すべてがなんだかなよなよっとしていて、
あれ、こんな感じだったっけ? と。

ロレンスの理想を、まっすぐに受け取っていたのは、
映画の最初、ロレンスのガイドを殺したアリでした。
二人は、アラブの独立戦争のため、協力しあう仲となります。

ロレンスの理想に、惹かれ、目覚めていきます。
が、ロレンスはというと、ゲリラ戦を重ねていくうち、
心のバランスを失っていきます。
殺すことを「楽しむ自分」があったことに慄きます。

アリはロレンスの精神状態がおかしくなり、
必要以上の殺戮を「Go」するたび、
「That’s enough.」
と、止めようとしています。が、ロレンスは決行し、
どんどん自分の心を追い詰めていきます。

ロレンスに感化されて、アラブの国家をしっかりとしたものに立ち上げよう
という理想をもつようになったアリは、
心が壊れていくロレンスと対照的で、
信念の軸をしっかりと持つようになり、存在感の魅力を増していきます。

どうしても、役で魅力に差ができてしまうもんなんだなあと思った次第。

ちなみに、モデルとなったロレンスも、
アラブを引き上げた後、このときの体験をあまり人に知られないように暮らし、
亡くなった後は、映画の出だしであったように、
「この人、こんなに盛大に弔われるけど、何した人?」
と言われるくらいだったようです。

繊細な人にとって、戦いは深い傷あとを残します。
それが強烈に伝わってきた映画なのでした。
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