11/29/2012

映画・本ー Life of Pi 邦題「パイの物語」とエドガー・アラン・ポー


久々に、本と映画の話題。

ノースカロライナに住んでいた頃、
Cary Newcomers Club というソーシャル・グループに入っていました。
こと、そこのブックグループでは、いい友人が沢山できました。
月1回、メンバーが順番に本を選んで、
皆で読んだ後、ディスカッションをしています。
このブックディスカッションというのは、
アメリカではとてもポピュラーです。
そして、"Life of Pi"もその中の1冊でした。

この本ですが、とても評価され、話題になっていました。
かいつまんで言うと、パイ(ピシーン)というインド人青年が、
家族とカナダを目指して日本製の船に乗っている最中、
船が沈没し、たった1人だけ、虎とともにサバイバルするという物語です。

パイは宗教にとても関心のある少年で、
ヒンズー教、キリスト教、イスラム教、その他もろもろの
神の概念、信仰のありかたに魅了され、
「どれも素晴らしくて、1つに決められない!」
という子供でもあります。

本は、現在のパイが過去を振り返るという形で構成されています。
覚えていますが、いやはや、疲れたものです、
延々と続くインド時代と、海でのサバイバルの描写の所に。
物語は、最後のごく少ない部分で、急速に展開します。
延々と続いた部分は、なるほど、必要であったのかと納得しますが、
仲間の中には、
「ごめんなさい、最後までどうしても読めなかった」
という人が何人かいたくらい確かに単調に感じられました。
それは多分、何に向かっているかわかりにくかったからだと思います。

この本は、確か2001年に出版された物で、
読んだのは2007年です。
ブッカー賞(Booker Award)という有名な賞を取っており、
映画化するという話でしたが、なかなか世に出て来ませんでした。
が、ついに完成!
早速、観に行きました。




さて、映画を観て嬉しかったのは、
あれほど本で苦しんだ延々と続く回想の部分を、
楽しみながら観る事ができた事です。
下の写真は、映画の中で、まるで鏡のようになった静かな海の上に、
ぽつんと漂うパイと虎です。
特撮、映像処理の技術が発達したおかげで、
沢山の幻想的なシーンを堪能できました。



















ここから下は、自分で映画や本をみる前、
あまり情報過多になりたくない人は読まないで下さい。
映画か本を読んだ後、また戻って来て下さいね〜。


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Source: slate.com via Yoshiko Mishina on Pinterest




ところで、この物語ですが、
実のところ、2面性を持っていて、
もう一方の物語は壮絶です。
人間としてタブーの、カニバリズム(人肉食/人が人を食べる)です。
パイは、自分が生き残るための戦いについて、
虎とともに牽制しつつも友情のような物を感じながらなのか、
生き残った人間同士の中で、食うか食われるかの壮絶な戦いをした上なのか。
「どっちの話が好ましいと思うか?」
(Which story would you prefer?)
と人に問い、そしてその結論を神の意志としてゆだねるのです。

さらにもう一つ、
この物語で、虎の名前は「リチャード・パーカー」といいます。
妙に普通の人間のような名前です。
ヨーロッパの人ですと、けっこうこの名前を聞くと、
イギリスで実際にあった悲惨な事件
「ミニュネット号事件」
を連想する人が多いのではないかと思います。

1884年、ミニュネット号という船が沈没し、
船長と給仕の青年(リチャード・パーカー)と他2人の計4人が救命艇で漂流しました。
食べ物が底をつき、身体の弱っていたリチャード・パーカーは、
身内もなく、17才という最年少者でした。
食べ物も飲み物もなく、極限状態に陥った中、
船長はこのリチャード・パーカーを殺して食べる事を決断・実行しました。

残った3人は、まもなく無事救助されましたが、
イギリスに戻ってから「殺人罪」として起訴され、
殺人を実行した2人は死刑の宣告を受けました。
しかし、「カルネアデスの舟板」(緊急避難) が当てはまるという意見も強い中、
しばらくたってから減刑され、死刑にはならなかったようです。
大変難しい裁判で、おおいに物議をかもし出したようです。
注:カルネアデスの舟板(緊急避難)についての説明は下のリンクをご覧になって下さい。
http://www.mc.ccnw.ne.jp/a_kuma/preaching/hunaita.html

なぜ、この「ミニュネット事件」がとても有名かというと、
さらにもう1つ驚くべき事実があるからです。

「黒猫」の作者で有名な、イギリスの作家・エドガー・アラン・ポーが、
このミニュネット号事件とそっくりそのままの話を、
事件より約50年ほど前に小説に書いていました。
たしか、彼の唯一の長編小説です。

”The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket”

というこの小説の中では、
救命艇の上で起こった事一つひとつが、
じつにミニュネット号事件とそっくりそのままなのです。
食べられた青年の名前まで同じ。
リチャード・パーカーでした。

「偶然の一致」という事で驚かれていますが、
ほとんど予言といっていいくらい起こった事が同じで、
私にとっては、不気味です。
もしかして、ポーという人は、何か不思議な力があったのかも??



Edger Allan Poe



Source: amazon.com via Yoshiko on Pinterest
amazon.com via Yoshiko on Pinterest

”The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket”

全文は、下のリンクからも読めます。(英語)
興味がある方はどうぞ。
http://xroads.virginia.edu/~MA98/silverman/poe/frame.html

ミニュネット号事件について(日本語)


Strange Prophetic Story By Edgar Allen Poe(英語)
Richard Parker Coincidence (英語)

    




とまあ、以上のような事から、
Life of Pi (パイの物語)を読んでいるとき、
この事件を連想する事ができた人は、
物語の進む方向性というのか、含まれた意味のような物を示唆されるので、
長い長〜い回想の部分を乗り切れたかもしれません。
わたしの場合、ディスカッションの時に初めて聞いて知ったので、
苦しかったです。。。

ところで、この物語には、さらにもう1つ逸話があります。
ブッカー賞を受賞した直後の、
盗作スキャンダルです。

下の写真は、”Life of Pi ”の作者ヤン・マーテル。
生まれはスペインですが、外交官の父親の仕事で世界を転々とします。
カナダの大学を卒業後、色々な仕事を転々としつつ、
創作活動に励み、「パイの物語/Life of Pi(2001)」で、
ブッカー賞(Booker Award) を受賞。
カナダ在住。




 Yann Martel

この、ヤン・マーテルですが、ブッカー賞を受賞した直後、
ブラジルの作家の作品にそっくりな物があると取りざたされました。
「マックスと猫 (Max and the Cats)」という作品です。
下のリンクは、日本語での記事です。


Source: amazon.com via Yoshiko Mishina on Pinterest


by Moacyr Scliar

この本では、主人公がジャガーとともに漂流します。
日本にはほとんど馴染みのない作家です。
確かに、あれ、と思うような共通点がいくつかあります。

ヤン・マーテルは、この「パイの物語」以後10年ほどたちますが、
特にこれといった作品を発表していません。
2010年に "Beatrice and Virgil: A Novel"という新作が出ました。
彼にとって3冊目の作品だそうです。(Life of Pi は2冊目)

Source: amazon.com via Yoshiko Mishina on Pinterest

Beatrice and Virgil: A Novel

この本は、ランダムハウス(出版社)から3ミリオンという、
カナダの作家としては最高額の前払い金だったとあります。

2010年出版の最新?
作品の評判はどうだろう?



話がずいぶん横道にそれました。
話を映画に戻します。

PG13(親の監督下のもと13才未満も観てよい)ということだったので、
今回、小学生の息子も連れて観に行きました。
わたしが心配だったのは、
最後の所で、もう1つのおぞましい話が登場する部分。
(あれが映像になっていたらどうしよう!?)

 PG−13とあった通り、
もう1つの食い合いのストーリーは、
主人公の口から手短かに語られるだけで処理されていました。
よかったです。

高校3年生の娘、小学生4年生の息子は、
パイのストーリーのどちらが本当なんだろうという私の問いに、
迷いなく「ベンガル・タイガーと一緒にサバイバルした方」
と答えました。

映画はとてもよくできていて、
油断すると自分が食べられてしまう恐れのある猛獣との共存。
それがかえって孤独より生き伸びようという力の元になっている所が、
本当にリアリティをもって感じられました。

例えば、ウッカリ虎(リチャード・パーカー)が海に落ちたのを、
パイは一生懸命助けます。
放っておけば、簡単にこの猛獣から逃れることができたのに。

パイにとって、たった一人になる事の方が辛いという状況が、
自然に受け入れられるシーンでした。

大海の上でポツンと1人だけ、というのは、
想像を絶する孤独です。

NASAのある都市・ヒューストンに住んでいたころ、
宇宙飛行士に関係した実験で、
人間がどこまで閉塞した孤独に耐えられるか、
ということが行われている話を聞いたことがあります。
人間は、ほんの小さなものでも、
何か働きかけあうものがないと、
頭がおかしくなってしまうのだそうです。
ですから、宇宙に出て行く宇宙飛行士は、
こういった孤独に耐える訓練もしないといけないようでした。

この映画の主人公は、二百十何日も海の上を漂っています。
(1977年7月2日 〜 1978年2月14日)
とても、とても長い期間です。

この長い長い海の上の孤独の中、
ベンガル・タイガー(リチャード・パーカー)が、
パイの命綱となっている様子が、よく描かれていました。

本を読んだだけの時は、100%悲惨な食人の方が現実と思っていました。
「最後にどんでん返しがある物語」
という解釈で終わりでした。
ボートに最初に乗っていたのは、
台湾人の好青年、コック、パイの母親とパイの4人であり、
虎はパイ自身ではないか、
最後に1人で孤独と戦っている間に、
自分を保たせるための強い意志が生んだ幻覚ではないかと。

でも、今は、
(この映画を観た後では、)
Which story would you prefer?
と訪ねられたら、
Story with animals.
と答えるだろうなと思っています。

みなさんは、どう答えるでしょうか?

物語の中で、
パイは、自分の2つの「サバイバル・ストーリー」について、
どちらを believe (信じるか)ではなく、
prefer (好ましいと思うか)という言葉を使って、聞いた人に問いかけています。

この点、とても意味深です。

そして、ここに、この作品の広がりがあるのです。

いずれにしても、これはフィクション。
どのように解釈しても自由ーーと思っています。

わたしの持っている本(ブックグループの時買ったもの)には、
作者のヤン・マーテルは
「とてつもなく空腹なとき、この物語のアイデアが浮かんだ」
との記述があります。ちょっと怖い。。。


さて、こちらは、別のトレイラー(同じもので日本語字幕付きも並列しました)。
映画は作家がパイの物語を聞きに訪れる所から始まります。
大人になってからの主人公のナレーションが映画のように入っています。
(でも、BGMがちょっと、これじゃないないよなあ。。。合わない)
個人的に、最初にのせた公式トレイラーの方が好みです。
ところで、
主人公が恋する少女は、映画の中だけですが、どんな意図があったんでしょうね。




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****資料****

エドガー・アラン・ポーの小説の世界が50年後に現実になった。
http://www.kjsei.net/example/01.html
ミニュネット号事件
http://www5b.biglobe.ne.jp/%257emadison/murder/text/mignonette.html
Strange Prophetic Story By Edgar Allen Poe
Richard Parker Coincidence

「パイの物語」の盗作疑惑
「マックスと猫」
http://en.wikipedia.org/wiki/Max_and_the_Cats

Life of Pi (本/英語)
Life of Pi

DVD(英語)
Life of Pi (Blu-ray + DVD + Digital Copy)
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